先日、僕は価値観を変えてしまうようなセールスを受けました。
事の発端は、倹約家だった彼女が突然豹変し、「40万円のシーツを買いたい」と言い出したことです。
普段はスーパーでの買い物でもシビアな彼女が、突然40万円もする高級な買い物をしたいと言い出したのです。
さらには「良いものだから、あなたも一緒に買わないか?」とまで言い出す始末。
当時の僕には、「彼女が豹変した」としか思えませんでした。
そこで僕は彼女と一緒に、お店に行ってみることにしました。
そこで体験した店員さんの巧みなストーリーテリングは、僕の価値観を大きく変えることになったのです。
この記事では、ストーリーテリングの効果と具体的なビジネス活用法について、実践的な内容をお伝えします。
僕は現役WEBマーケターとしての経験から断言できることがあります。
それは、「人の心を動かすのは論理ではなく、感情である」ということです。
この記事を読むことで、あなたは以下のことが理解できるようになります:
- なぜ感情に訴えかけることが売上に直結するのか
- どうすれば相手の価値観を180度変えることができるのか
- 実際のビジネスシーンでどう活用すれば良いのか
なぜ感情に訴えかけると売上が上がるのか?科学的根拠を解説
ストーリーテリングとは、「ストーリーという乗り物を使ってメッセージを相手に届けること」です。
第三者にメッセージを伝えるとき、どんな乗り物に乗せるかを考える必要があります。
乗り物が違えば、到達できる場所が違います。必然的に、到達するまでの過程や経験も変わります。
例えば、日本から海外へ行くときには、飛行機もしくは船を使うしかありません。電車では無理だからです。
このように、「目的によって乗り物を選ぶ方法」が1つ。
さらに「目的地に到達するまでの体験で選ぶ方法」もあります。
飛行機を使って海外に行く場合、飛行機を降り立つ瞬間や空から見える景色にワクワクする人が多いでしょう。
このように、移動手段のための乗り物でも、何を選ぶかで体験や感想、その時間の価値が変わります。
マーケティングの鉄則:人は感情で決定し、理性で正当化する
マーケティングの世界では、「人は感情で物事を決定し、理性でその決定を正当化する」と言われています。
これは様々な研究によって証明されている説で、反対に「人は論理で物事を決定する」という説は1つもありません。
僕は、メッセージを伝える際の乗り物について、2種類に分けられると考えています:
1.論理先行型
- PREP法などが代表例
- 先に結論を伝える方法
- 理解を促すことに長けている
- 相手が同じ信念を持っている場合に有効
- ビジネスシーンで推奨される型
2.ストーリー先行型(ストーリーテリング)
- 相手の信念を変える力がある
- 理想とする信念と相手の信念にギャップがある場合に有効
- より時間はかかるが効果は大きい
シーツ店の成功事例から学ぶ感情を動かす力
冒頭でお伝えしたシーツ店の店員さんは、実際に様々なエピソードを巧みに使って僕の価値観を変えていきました:
- 高齢の同僚が生き生きとしている姿に驚いた。全員ムートンシーツを使っていることが判明し、疲労回復効果を実感した
- 自分も愛用している。一緒に使っている旦那も虜になり、家族全員が使っている
- シーツに醤油を垂らしても大丈夫。水で洗い流すときれいになる(実演付き)
店員さんのエピソードを聞くうちに、僕もムートンシーツが欲しくなっていきました。
もともとは興味がなかったのですが、だんだんとエピソードに引き込まれ、最終的には「40万円でも安いかもしれない…」と考え始めたほどです。
論理的説得 vs ストーリーテリング:効果の違いを比較
シーツ店の店員さんのようにストーリーを語れば、相手を説得する必要はありません。
相手はストーリーに引き込まれて、勝手に価値観が変わるからです。
ストーリーによって感情が動かされ、メッセージに共感することで、説得するよりも高い効果が生まれるのです。
もしあのとき店員さんが、結論先行型で「40万円のシーツを買うべきだ」といかにロジカルに話されたとしても、僕は「40万円のシーツは高い」という考えを持っているので、なかなかこの価値観を変えることはできなかったでしょう。
ストーリーを交えたセールスと結論先行型でのセールス、この違いは「相手が自分で、メッセージに気づけるか」ということです。
人は、自分でたどり着いて出した答えは、信じて疑いません。
ストーリーを聞いて、自ら結論を導かせるということは、第三者が無理に説得する必要がないのです。
つまり、相手の信念が異なる場合、論理的な説得では価値観を変えることは難しいのですが、ストーリーテリングには相手の信念を変化させる力があるのです。
相手の信念を変えたいときは、ストーリーテリングを使うべきでしょう。
相手の信念を180度変える「価値観転換」の具体的手法
ストーリーテリングを学ぶ上で、もう1つ押さえておいてほしい重要な前提があります。
それは「小さい物語」と「大きい物語」の区別です。
「大きい物語」とは、映画や神話、おとぎ話などです。ネットで「ストーリーテリング」と検索するとヒットする「神話の法則」は、この「大きい物語」のための手法です。
確かに「神話の法則」はストーリーテリングをする上で王道の技法ですが、いかんせん使い勝手が悪いと思います。
一方の「小さい物語」とは、エピソードトークや小話と呼ばれる類のものです。
この記事で扱うのは、この90秒~5分程度の短いストーリーを通して、メッセージを伝えるテクニックです。
「気づき」は「説明」を超える:なぜストーリーは説得より効果的なのか
ストーリーテリングの本質は「変化」です。そして、その本質は「対比」にあります。
たとえば「とある青年が、平凡な生活を過ごして、ずっと幸せに過ごしました」というような、何も変化が起きないストーリーは面白くなく、メッセージも何も伝わりません。
ストーリーが「変化」していることが重要で、この変化のギャップが大きければ大きいほど、ストーリーは面白みを増します。
変化の方向性は以下の2つしかありません:
1.上がっていくストーリー
- 借金生活だった人が億万長者になる
- 変化前と後で大きなギャップがある
2.下がっていくストーリー
- お金持ちの人が借金地獄になる
- 対比的な要素が強い
内的ストーリーと外的ストーリーの同時進行テクニック
ストーリーテリングには2つの側面があります:
1.外的(表)なストーリー
- 目に見える出来事の変化
- 具体的な行動や状況
- 時系列に沿った展開
2.内的(裏)なストーリー
- 価値観や心情の変化
- 気づきや学びのプロセス
- 教訓に至るまでの道のり
外的なストーリーと同時に内的なストーリーが進行しているという点が、ストーリーテリングの重要なポイントであり、最も難しいポイントでもあります。
ストーリーが完結したときには、外的・内的なストーリーで、対比の関係が成立している状態です。
例えば童話「大きなカブ」では、外的なストーリーとして【カブを植える前とカブが抜けた後】の2点間の変化を表すことが大切です。
一方、内的なストーリーでは【1人でできると考えていたときと、チームプレイの大切さに気付いたとき】のように、おじいさんの心情に変化があったことを表現しなければなりません。
このように、内的・外的なストーリーが同時並行で進むからこそ、ストーリーテリングとして成立するのです。
個人的なエピソードが持つ圧倒的な説得力
ストーリーテリングを使う上で、「なるべく個人的なエピソードを語るべし」というのは重要な原則です。
聞いたことのあるエピソードや有名なエピソードは、ネットで検索するとたくさん出てきて引っ張ってきやすく、簡単に語れるというメリットがあります。ですが、それらはあくまで他人のエピソードに過ぎません。
その人自身(話し手)のエピソードではないので、ファン化には繋がりません。
例えば、人気の映画を勧める際、
「この映画、とても良いって評判らしい。シリーズ最新作で、今回、最後がすごく良いらしいよ」
と他者から聞いた感想をそのまま伝えるよりも
「この映画をこの前見たけど、とっても良かった!全シリーズ見たけど、今回ストーリー構成が斬新で一番惹きつけられたし、最後のあの俳優さんの演技が鳥肌モノだったよ!」
と実際に自分で鑑賞した映画の感想を伝えたほうが
「そこまで言うなら観に行ってみようかな」という気持ちを引き起こすことができます。
さらに、良いストーリーには以下の5つの要素が必要です:
- 主人公
- 目的
- 障害
- ターニングポイント
- 教訓
一直線に上がっていくだけの話には、学びや深みはありません。
例えば、生まれながらにお金持ちの人が、順調に成長し、大人になって立ち上げたビジネスも大成功、よりお金持ちになって幸せな生涯をおくりました―というようなストーリーに魅力を感じる人はいません。
ストーリーには曲がりくねった道(波)のようなものが必要なのです。
主人公が目的達成のために障害=困難を乗り越えたから教訓が得られた!という形にすることで、人を惹きつける魅力的なストーリーが完成します。
ストーリーテリング3つの具体的な活用事例
これまでストーリーテリングの理論について説明してきましたが、理解を深めるために、実際の事例を通して学んでいきましょう。
以下の3つの事例は、すべてADEPTフォーミュラ
- Assertion:主張
- Direction:方向
- Episode:エピソード
- Plot:組立て
- Telling:伝える
に基づいて構築されています。
行動の重要性を伝える:自分で行動することの価値を説く物語
「高校3年生の秋まで志望校が決まらなかった」というストーリーです。
主人公は高校3年生の秋まで、志望校など考えることもなく、ただ漫然と勉強をしていました。そもそも文理の選択も、自分の意思ではなく仲の良い友達に付いていっただけ。友達の付き添いで1度だけ参加したオープンキャンパスも、結局自分の興味のある分野の大学ではありませんでした。
しかし実際には、高校3年生の春には志望校についての話題が飛び交っており、自分が何もしていないことに気付かされます。とはいえ「自分が何になりたいかもわからない」「何をしたら良いかもわからない」状態。そんな中、夏休み前には親友の進路が決まり、とうとう「なんとかしなくては!」と焦りだします。
転機は、部活に顔を出してくれた先輩たちとの出会いでした。最初は黙って話を聞いていましたが、「これではだめだ」と思い立ち、まだ進路すら決まっていないことを打ち明けます。すると、先輩たちが自分の通っている大学について、それぞれ紹介してくれたのです。
その中で自分の興味が沸く大学が見つかり、初めて1人でオープンキャンパスに参加。自分の思いと向き合う機会となり、最終的にその大学への進学を決定。充実した4年間を過ごすことができました。
このストーリーを通じて伝えられる教訓は「自分で動くことの大切さ」です。
言葉の力を伝える:彼女との関係から学んだコミュニケーションの真髄
このストーリーは、言葉選びの重要性と、その影響力を伝える実例です。
主人公はもともと、言葉にあまりこだわらない人間でした。頭の中で思いついたことをそのまま口にすることが多く、それが自分の個性だと信じていました。「言葉を選ぶ」なんて考えたこともありません。そう、彼女と別れそうになるまでは…
ある日、同棲していた彼女とケンカになります。きっかけは、主人公が家事を適当にこなしてしまったことでした。しっかり者の彼女は掃除の仕方に不満があり、「もっとちゃんと掃除してよ!」と怒ります。
その言葉を聞いた主人公は「そんなことで」と言い返してしまいます。確かにピカピカではないけれど、それなりに綺麗になっていたので、十分だと思ったからです。しかし、この何気ない一言が彼女の心を深く傷つけ、同棲からたった1ヶ月で別れの危機に陥ってしまいます。
主人公は彼女のことが好きで、別れたくありませんでした。そこで心を入れ替えて必死に家事をこなし、トイレやお風呂をピカピカに掃除し、不慣れな料理も一生懸命作りました。
彼女との仲直りの際、「あなたの言葉はナイフのように尖っている。だからあなたにそんなつもりがなくても人を傷つけてしまうことがある。そのことを忘れないでほしい。」と言われたのです。
この経験をきっかけに、主人公は慎重に言葉を選ぶようになります。確かに言葉に詰まってしまって会話がスムーズにいかないこともありましたが、相手を傷つけることが減り、むしろ相手が言いたいことを察してくれたり、好意的に受け取ってくれたりすることが増えたのです。
このストーリーが教えてくれるのは、コミュニケーションの本質は流暢に話すことではなく、相手を思いやって丁寧な言葉を使うことだということです。
学びの意義を伝える:勉強嫌いがマーケターになるまでの軌跡
この事例は、学習に対する価値観の大きな転換を描いた実話です。
主人公は元々勉強嫌いで、成績も悪い方でした。小学2年生のときには、国語のテストで0点をとったこともあります。特にサボったりふざけたりしたわけではなく、あくまでも普通に取り組んだ結果の0点だったので、子どもなりに衝撃的な出来事でした。
小学4年生のころから進学に強い塾に通いましたが、そこでも1番下のクラスに在籍することになります。しかし、当時は劣等感や焦りなどは特に感じていませんでした。なぜなら、勉強自体に意義を見いだせなかったからです。漫画だけは読むという、典型的な「勉強のできない子ども」でした。
転機が訪れたのは大学3年生のとき。「お金を稼がなくちゃいけない」と思い立ち、アフィリエイトを始めたことがきっかけです。当時は「SEOでGoogleに上位表示させることができたら、自動販売機のようにお金が稼げる」と言われていました。
ところが、ここで問題が発生します。アフィリエイトで稼ぐためには、文章を書かなければなりません。400字の読書感想文でさえ苦痛に感じるほど文章が苦手だった主人公にとって、1記事3000~5000文字は大変な挑戦でした。
けれども、不思議と嫌な気持ちにはならず、挫折もしませんでした。なぜなら「稼ぎたい」という目的があったからです。強制的にやらされる勉強よりも、能動的に取り組む勉強のほうが高いモチベーションを保てたのです。
そのうち「どうやったらアフィリエイトで稼げるようになるか?」を考え始め、「売れる文章を書く」方法を調べていく過程で、自然と本を読むようになり、毎月10冊以上を読破するようになりました。
いまでは「人より文章が書けるようになった」という自負があり、WEBマーケターとして活躍するまでに至りました。この経験から学んだのは、やらされる勉強では何も身に付かず、自分がやりたい分野・興味を持った分野の勉強をすることが重要だということです。
すべての事柄は繋がっています。1つの物事を深堀していくと、どこかですべてのことがつながる瞬間があります。どんなことでも構いません。1つのことを勉強してみてください。それがきっかけとなって、あなたの人生が変わるかもしれません。
まとめ:ストーリーテリングで人の心を動かす
本記事では、ストーリーテリングの効果と実践的な活用法について、実例を交えながら解説してきました。
ここで重要なポイントを整理しましょう。
ストーリーテリングの本質は、「変化」と「対比」にあります。
ただし、映画のような「大きい物語」である必要はありません。90秒から5分程度の「小さい物語」で十分です。
重要なのは、外的なストーリー(出来事)と内的なストーリー(価値観の変化)を同時に進行させることです。
効果的なストーリーテリングのために、以下の3つを必ず意識してください:
1.個人的な体験を語る
- 他人から聞いた話よりも、自分の体験の方が説得力がある
- 実体験だからこそ、細部まで生き生きと描写できる
- 聞き手との信頼関係を築きやすい
2.5つの要素を含める
- 主人公
- 目的
- 障害
- ターニングポイント
- 教訓
この要素があってこそ、人を惹きつける魅力的なストーリーになります。
3.相手の立場で考える
- 結論を押し付けるのではなく、気づきを促す
- 感情に訴えかけることで、自然な形で価値観の転換を促す
- 適切な「乗り物」を選んでメッセージを届ける
ストーリーテリングは、AIには真似できない、人間にしかできない説得術です。
あなたの経験は、あなたにしか語れない唯一無二のストーリーです。
ぜひ、今日から自分の体験をストーリーとして語ることを始めてみてください。
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