「説得するのに疲れた…」
そう感じているビジネスパーソンは少なくありません。論理的な説明を重ねても、なかなか相手の心は動きません。
しかし、たった90秒の「物語」で相手の信念を変えることは可能です。
僕が、現役WEBマーケターとして成果を出すことができている背景には「ストーリーテリング」という強力な武器があります。
YoutubeやWEBセミナーの全体設計を企画する立場として、全体をひとつのストーリーとして捉え、視聴者をどのように行動させるかを常に考えてきたのです。
この記事では、Udemyベストセラー講師として1900人以上の受講生を抱える僕が、相手の心を動かすストーリーテリングの具体的な方法と4つの活用シーンを解説します。
机上の空論ではなく、実践で使える具体的なノウハウをお伝えします。
「説明疲れ」を解消!ストーリーテリングが最強の説得ツールである理由
相手を説得するとき、あなたはどんな方法を使っていますか?
多くの人は「論理的に説明する」というアプローチを取るでしょう。
しかし、それは本当に効果的なのでしょうか。
ストーリーテリングとは「ストーリーという乗り物を使って、メッセージを相手に届けること」です。
以下の3つのポイントから、なぜこれが最強の説得ツールなのかを見ていきましょう。
ムートンシーツで学んだ90秒の説得力
僕自身、ストーリーテリングの威力を身をもって体験した出来事があります。
それは40万円のムートンシーツを販売する店員との出会いでした。
事の発端は、もともと倹約家だった彼女が突然「40万円のシーツを買いたい」と言い出したことです。
僕は「彼女が豹変した」としか思えませんでした。
店舗で僕たちを迎えた店員は、数々の説得力のあるエピソードを巧みに語ってくれました:
- 高齢の同僚が生き生きとしている姿に驚いた。調べてみると全員ムートンシーツを使っており、その疲労回復効果に感動した
- 自分も愛用している。最初は半信半疑だった旦那も虜になり、今では家族全員が使っている
- シーツに醤油を垂らしても大丈夫(実際に醤油をこぼし、水で簡単に洗い流してみせる実演付き)
もともとは興味がなかった僕でしたが、店員のエピソードを聞くうちに、だんだんとストーリーに引き込まれていきました。
最終的には「40万円でも安いかもしれない」と考えが180度変わっていたのです。
この経験を通じて、僕は「ストーリーの力」を認識しました。
日頃から「相手を論理的に説得する方法」を考えていた僕にとって、これは衝撃的な体験でした。
相手を説得する必要はない、ストーリーが相手の価値観を自然と変えてくれるのです。
なぜ論理より物語が心を動かすのか
マーケティングの世界では、「人は感情で物事を決定し、理性でその決定を正当化する」と言われています。
これは様々な研究によって証明されている説で、反対に「人は論理で物事を決定する」という説は1つもありません。
ストーリーテリングの本質は「変化」と「対比」にあります。
平坦なストーリーでは人の心は動きません。
例えば「とある青年が、平凡な生活を過ごして、ずっと幸せに過ごしました」では、何も伝わらないのです。
さらに重要なのは、外的なストーリー(出来事)と内的なストーリー(心情変化)が同時に進行することです。
童話「大きなカブ」を例に考えてみましょう。
外的には「カブが抜けない→みんなで協力して抜けた」という変化があり、内的には「1人でできると思っていた→チームの大切さに気付いた」という変化があります。
この2つの変化が同時に起こることで、物語は心に響くのです。
感情を味方につける「小さな物語」の威力
僕がストーリーテリングの力に気づいて学ぼうと思ったとき、体系化された本がありませんでした。
インターネットで検索すると、必ずと言っていいほど『神話の法則』がヒットします。
確かに『神話の法則』はストーリーテリングをする上で王道の技法ですが、使い勝手が悪いと思います。
僕たちは映画監督になりたいわけでも、神話を研究する学者になるわけでもありません。
ただ人の心を動かす技術として、ストーリーテリングを使いたいのです。
そこで重要になるのが「小さな物語」です。
90秒から5分程度の短いストーリーで、次のような特徴があります:
- 短時間で相手の心を掴める
- 日常的な場面で使いやすい
- 具体的なエピソードを盛り込みやすい
- 相手が自分の状況に置き換えやすい
相手を動かす2つの手法を比較:論理的説得 vs ストーリーテリング
僕は、メッセージを伝える際の乗り物について、2種類に分けられると考えています。
1つは「論理先行型」、もう一つが「ストーリー先行型」です。
目的地が違えば、乗り物も変える必要があります。
例えば、日本から海外へ行くときには、飛行機もしくは船を使うしかありません。電車では無理だからです。
さらに、目的地に到達するまでの体験でも選び方が変わってきます。
同じように、メッセージを届けるための手段も、目的に応じて使い分ける必要があるのです。
PREP法vs物語法:どちらを選ぶべきか
論理先行型では、PREP法などが挙げられます。
主な特徴は:
- 結論から先に伝える
- 理解を促すことに長けている
- 上司への報告など、伝えたいことの全体像を速やかに説明するときに便利
- ビジネス文書で推奨される
一方、ストーリー先行型(ストーリーテリング)の特徴は:
- 感情に訴えかける
- 相手の信念を変える力がある
- 自然な形で共感を引き出す
- 記憶に残りやすい
論理的説得が効く場面と失敗する場面
論理先行型のメリットは、相手が同じ信念を持っている場合、ストーリーが不要な点です。
一方、デメリットは、相手の信念の結論が違った場合、主張を受け入れられない点にあります。
論理的説得が効果を発揮するのは:
- 相手が同じ信念を持っているとき
- 全体像を素早く伝えたいとき
- 上司への報告など、事実確認が主目的のとき
- すでに信頼関係が構築されているとき
逆に失敗しやすい場面は:
- 相手の信念が自分と異なるとき
- 感情的な要素が絡むとき
- 価値観の転換を促したいとき
- 長期的な記憶に残したいとき
ストーリーテリングが圧倒的に強い3つのシーン
「命を大切にしなければならない」というメッセージを伝えたい場合を考えてみましょう。
学校の若い先生が言っても、生徒には響きません。
反対に、戦争を経験したおじいちゃんやおばあちゃんが発信することで、そのメッセージが響くようになります。
実際に体験したエピソードであるほど、メッセージに重みが加わるのです。
ストーリーテリングは以下のような場面で特に効果を発揮します:
1.価値観の転換が必要なとき
- 商品の新しい価値を伝えたい
- 従来の考え方を改めてほしい
- 新しい取り組みへの理解を得たい
2.感情的な抵抗がある場面
- 高額商品の販売
- 新規サービスの導入
- 組織の変革期
3.長期的な影響を与えたいとき
- ブランディング
- 企業理念の浸透
- 組織文化の形成
実践で証明!4つの活用タイミングと具体的手法
ストーリーテリングは全ての場面で効果があるわけではありません。
使う場面を間違えると、かえって逆効果になることもあります。
そもそも自分と異なる強い信念を持っている相手に、いくら自分の信念を押し付け、ストーリーを聞かせても、ただただ鬱陶しいだけです。
では、具体的にどんなタイミングで使うべきなのか、僕の実践経験をもとに4つの活用シーンとその具体的手法をお伝えします。
タイミング1:気づきを与えたいとき
ストーリーを語る意味は、「相手に結論を導き出させる」ことにあります。
これは最も強力な活用シーンです。
例えば、冒頭でお話した、僕が経験したムートンシーツの話を思い出してください。
もし、あのとき店員さんが結論先行型で「40万円のシーツを買うべきだ」と、いかにロジカルに話されたとしても、僕は「40万円のシーツは高い」という考えを持っているので、なかなかこの価値観を変えることはできなかったでしょう。
なぜ効果があるのか:
- 説得ではなく、気づきを与えられる
- 相手が自ら結論を導き出せる
- 押し付けがましさがない
人は、自分でたどり着いて出した答えは、信じて疑いません。
ストーリーを聞いて、自ら結論を導かせるということは、第三者が無理に説得する必要がないのです。
タイミング2:共感を生み出したいとき
アパレル店員さんを思い浮かべてください。
あなたが洋服を見ていると、すっと近づいて来て、「何かお探しですか?」とすかさず声をかけてきます。
そんな店員さんに、警戒心を持つ人は少なくないと思います。
そこで警戒心を解きほぐすために、アパレル店員さんが使う手法がストーリーテリングなのです。
「体型カバーができるため私も買った」「合わせにくい柄物でもこの組み合わせなら自然に着られますよ」など、様々な切り口でストーリーを展開しています。
その話を聞いて、あなたが共感し、「確かに素敵な商品だな」と思ったとき、同時に、その素敵な商品を薦め、同じ価値観を持つ店員さんに親しみを感じているのです。
効果が高まるポイント:
- できるだけ個人的なエピソードを使う
- 実体験に基づく具体的な描写を心がける
- 感情の機微を丁寧に描写する
タイミング3:付加価値を付けたいとき
Appleの創業者スティーブ・ジョブズは、iPhoneを発表したとき、まず「革命的な新製品3つを発表します」と始めました。
それは「1.ワイドでタッチパネル式のiPod」「2.革命的な携帯電話」「3.画期的ネット通信機器」の3つです。
観客の心はワクワクでいっぱいになり、そして新製品は3つではなく、それらの機能が融合した画期的な1つの機器であることが明かされます。
さらに、これまでの携帯電話は賢くなく使いにくいと話す彼に共感し、より新製品に興味が湧くよう仕向けられたのです。
このように、ブランドや製品についてのストーリーを語ることで、その商品が持つ価値は上がります。
タイミング4:長期間覚えておいてほしいとき
現代社会で1日で得られる情報量は、江戸時代の1年分、平安時代の一生分です。
膨大な量の情報の中で、すべてを覚えておくことは不可能です。
思い出してみてください。
中学生時代に歴史の年号や数学の公式など、授業で沢山覚えさせられましたよね。
その覚えにくい年号や公式を、友達と一緒に語呂合わせを考えながら勉強したり、先生の真似をして授業の復習をしたりと工夫して覚えた記憶はありませんか?
テストのときにも問題を見て、友達と話した記憶が蘇り、「そういえばあの時、あいつがこう言ってたな」と答えもすんなり芋づる式に出てきます。
それだけストーリーは人の記憶に残りやすいのです。
記憶に残りやすくする工夫:
- 感情的な起伏をつける
- 具体的な描写を心がける
- 聞き手の経験と結びつける
- 意外性のある展開を入れる
実践的なストーリーテリングを始めよう:まとめと行動のステップ
ここまで、ストーリーテリングの本質と4つの活用シーンについて解説してきました。
重要なポイントを整理しましょう。
ストーリーテリングの核となる要素:
- 外的なストーリー(出来事)と内的なストーリー(心情変化)の同時進行
- 90秒から5分程度の「小さな物語」の活用
- 実体験に基づく個人的なエピソード
そして、4つの活用タイミング:
- 気づきを与えたいとき
- 共感を生み出したいとき
- 付加価値を付けたいとき
- 長期間覚えておいてほしいとき
ストーリーテリングは、AIが発達するこれからの時代にこそ、人間にしかできない強力なコミュニケーションツールとなります。
なぜなら、実際に体験したことをストーリーとして語ることは、AIには決してできないからです。
まずは日常生活の中で、あなたの体験をストーリーとして語ることから始めてみてください。
些細な出来事でも構いません。そこから徐々に、仕事やビジネスの場面でも活用していけば、あなたも必ず相手の心を動かすストーリーテラーになれるはずです。
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